※(BSC=Balanced ScoreCard)
新潟県よろず支援拠点コーディネーターの木村です。
BSCは、組織運営の可視化やアクションプランの着実な実行など、経営にとって重要な機能を発揮するツールです。
1.BSCの構成
BSCは、「戦略マップ」と「スコアカード」で構成されます。
各戦略目標間の相互関係や実現のシナリオを、フローチャートで表現したものが「戦略マップ」であり、目標の達成状況を管理するための評価指標と目標値をまとめたものが「スコアカード」です。
2.BSCの本質
マネジメント・システムは、戦略立案(PLAN)、実行(DO)、評価分析(CHECK)、戦略再構築(ACTION)というサイクルで構成されます。
BSCは、戦略レベルでこのサイクルの「プロセス」をサポートする経営管理手法であり、その重要な機能は、「戦略プロセスの可視化」ともいえます。
一般的に、BSCは業績評価システムとして認識されることが多いのですが、本質的には戦略遂行のためのフレームであり、経営革新のためのツールでもあります。
従って、マネジメントにおけるこれらの機能活用が、BSC導入の本来の目的といえます。
BSC導入においては、戦略マップやスコアカードの作成が目的化することが多く見られ、本来の戦略目標達成のためのアクションプラン作成と、その成果をサポートするシステムとしては脆弱なものも見受けられます。
また、戦略立案の事前プロセスにおいても十分な検討がなされないまま、BSC導入に踏み切る例も多く、導入前のプロセスにおける検討内容とその質的レベルの向上、および導入後における目標達成のためのシステム構築が成功の鍵といえましょう。
3.BSCの導入プロセス
1 BSC導入目的の明確化、導入スケジュールの決定(組織内共有)
2 ミッション・ビジョンの確認(納得・共感)
3 経営環境分析(SWOT分析、ドメイン分析等)
4 自社部門機能の再定義
5 部門経営課題の発見と成功要因(KFS)の発見
6 事業戦略テーマの抽出、戦略立案(ミッション・ビジョンと達成のシナリオ)
7 戦略目標の設定(ワークショップ等による納得・共感)
8 優先順位の決定、またはウエイト付け
9 戦略実現のシナリオ化(戦術化)
10 業績評価指標(KPI)の決定(定量化、ゴールイメージの具体化)
11 戦略マップによる相互関係(リンク)と助け合いの確認(全体最適化)
12 アクションプランの作成(整合性確認)
13 実行体制の確立
14 評価指標による成果評価、プロセス評価
15 フィードバックと戦略再定義
16 MBO(目標による管理)による個人目標への展開
4.BSCの導入効果
1 ミッション・ビジョン・戦略の明確化
2 戦略志向の組織風土構築
3 主体的意識を持つ管理人材の育成
4 権限と責任の明確化
5 戦略と事業行動の整合性
6 戦略目標達成の標準化
7 ITと融合し、経営ナビゲーターとしての役割
8 PDCAに基づくマネジメント・サイクルの実現
9 経営戦略の理解と共有レベルの向上、達成行動のモニタリング
10 サポート部門やサービス部門など、間接部門の業績評価
11 ナレッジ・マネジメント機能
12 投資効果の評価
13 ISOなど品質基準のモニタリングと連動
14 業務プロセスの全体像や包括的なチャート化による可視化
15 人材育成における気付きと学習についての動機付け
16 仮説・推論・検証の定着
17 後追い管理から先行管理へシフト
5.戦略マップ
(1)戦略マップの構造
「財務」、「顧客」、「内部プロセス」、「学習と成長」の4つの視点で重要な戦略目標を定義し、この戦略目標間の相互関係を1枚のチャートで視覚的に分かり易く表現したものが「戦略マップ」です。
このチャートでは、各戦略シナリオを結ぶフロー(パス)により、情報や機能の結びつきを表現しています。
また、それぞれの戦略目標では、その成果や達成度を評価するための業績評価指標を設定しますが、各業績評価指標にはそれぞれ目標値があり、それを実現するための行動計画を戦略マップに記載することも必要です。
(2)相互関係
4つの視点における戦略目標には、各視点間の相互関係があります。また、戦略目標の達成には組織内の部門間などの相互関係もあり、それらの整合性をとるには部門間の十分な話し合いが不可欠となります(協力関係や助け合いが必須)。
さらに、行動計画は時系列で作成されるため、実施のタイミング(スケジューリング)の整合性についても十分な調整を必要とします。
(3)戦略マップのメリット
1 経営戦略を1枚のフローチャートで俯瞰でき、全体を意識した議論ができる
2 戦略目標間の相互の関連性が理解できる
3 優先順位やウエイト付けにより、重要なパスが理解できる
4 戦略目標達成のシナリオが理解できる
5 戦略目標や達成行動計画が共有できる
6 戦略目標の見落としが減少する
7 戦略目標の絞込みが行われる
8 業務プロセスの不備が明確になる
9 組織全体の隅々まで浸透させることができる
10 社員のモチベーションが高まる
11 情報のフローが明確になる
12 関連部署や個人の役割が明確になる
6.4つの視点と指標
BSCにおける4つの視点は、必然的に導き出された重要なマネジメント要素に他なりません。
その内、財務の視点は日本と米国では若干の相違がみられ、日本は事業継続のための財務体質の健全化を意図したものや、生産性向上や利益率改善に重心を置いたものが多くみられます。(米国では、株主の利益を重心に置いた目標や指標が主流。)
いずれにしても、従来のような単純な財務数値ではなく、細分化した機能評価指標を用いるケースが増えており、その点からはプロセス・マネジメント要素が加わったものともいえましょう。
財務の視点 | ●財務体質の健全化
財務の視点とは、「財務体質の健全化や株主利益の拡大に対して何をすべきか」というものである。 財務の視点は、全ての頂点に立つもので、各戦略目標が目指すゴールともいえる。 具体的なKPIとしては、成長戦略としての売上高や各種利益目標、ROE(株主資本利益率)、ROA(総資本利益率)といったものや、それらの構成要素である売上高利益率、資本回転率などの指標がある。これらはカテゴリー別に設定されることが多い。これらを部門に展開したものとなる。 また、機能性評価(効率化評価)指標として、財務に与える影響力の大きさから、コストダウンや納期の短縮、あるいは労働生産性指標や設備生産性指標を用いることもある。 |
顧客の視点 | ●顧客に対する価値の提供(CS=顧客満足)
「戦略目標を達成するために、顧客に対して何をすべきか」というものである。 具体的指標としては、その戦略アクションの結果、顧客がどう行動したかを評価するものとして、顧客セグメント別売上高(利益)、マーケットシェア、インストアシェア(受注比率)、競合勝率、顧客別付加価値推移、新規顧客増加数、客単価拡大率、固定客化率、リピート率、顧客レスポンス改善、ブランドイメージ評価などが挙げられる。 これらは顧客セグメント単位に設定されなければならない。製品別セグメントや、社内機能別セグメントでは有効に機能しないことが多い。フォーカスすべき顧客を明確にすることから始まる。 また「顧客満足度(CS)」の調査結果を評価指標とするケースも多いが、目標数値の決定や評価検証があいまいになりやすい。 例えば満足度がもっとも高い顧客の割合の増加を目標とするのか、あるいは最も満足度が低い回答の顧客割合を減らすのか、それぞれ異なる意味があるわけで、これらについての議論を尽くさずに安易に目標設定を行うと、方向性にブレが生じる。 これらは現状に対する問題認識によって影響を受ける事項であり、注意すべきポイントである。 |
内部プロセスの視点 | ●KFS(成功の鍵)としての業務プロセスの優位性構築
「財務の健全性、あるいは顧客を満足させるためにどのような業務プロセスで優位性を確立するか」というものである。基本的には戦略行動の結果を評価すべきものになる。 例えば製造業の場合、品質(不良率)、設備稼働率、開発期間、在庫回転率、生産リードタイム短縮、在庫削減、歩留まり、TQM効果などがある。時間効率指標はここに含まれる。 これらは、収益性を基準とするものと効率化を基準とするものに分けられる。また、標準化や既存の業務プロセスを変革した効果を評価指標とするものなども考えられる。 なお、設定する指標によっては、質より量を追求した結果、顧客満足度の低下を来たすなど、本来の戦略目的と異なる行動を行うようになることもあるので注意を要する。 また、IT活用によるデータ収集の効率化も視野に入れて、システム再構築が必要になるケースが多い。 内部プロセス評価においては、他部門や外注先などが影響する。これが責任転嫁の温床になるケースが多く、このような責任回避の理屈を認めないような仕組みや組織風土、あるいは権限委譲と意識の改革が求められる。 |
学習と成長の視点 | ●組織・人材の革新と成長
「戦略を達成するために、どのようにして組織革新と人材能力の成長を図るか」というものである。 具体的には、必要資格保有率、モチベーションレベル、MBO効果、会議レベル評価、能力開発効果、教育訓練の実施度合い、ナレッジシステムの活用レベルなど、組織の知的財産がどれだけレベルアップし活用されているかを評価する。 組織革新では、業務プロセスの可視化段階として、PDCAサイクル・フォーマットの導入などマネジメント・システムの再構築や、BSCを含めた統合的なIT化(DX化)なども含まれる。 |
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