収支分岐点と資金計画について

新潟県よろず支援拠点コーディネーターの木村です。

今回は、資金計画作成の基本的考え方について説明します。

 

1.資金計画の意味

資金計画には2種類の意味があります。一つは設備投資や経費支払に備えて資金調達を計画することであり、もう一つは来期の売上や費用構造の変動に応じて必要運転資金がどう変化するか予測し、資金調達と資金運用を計画することです。

設備投資等に対する資金調達計画と支払・返済計画の作成は日常的に行われていることで、通常は「設備投資の経済計算」と組み合わせながら実施されています。

最近は、「キャッシュフロー割引法(DCF)」により、将来得られるキャッシュフローを現在価値に割り引き、投資の可否を判定する方法が用いられるようになっていますが、要はその投資によってどれだけの利益やキャッシュフローが、その運用期間内において見込まれるかを計算することです。

本コラムでは、売上等の変動に対してキャッシュフローがどう変化するかを予測し、運転資金計画をたてる二つ目の方法について説明します。

 

2.資金計画と増加運転資金

利益計画は損益分岐点の仕組みの応用です。

損益分岐点分析では、売上の変動により利益がどのように変化するのか、その相関(限界利益率)を求めるものです。

そこから、ある売上高の場合に予想される利益を求めたり、必要とする利益を確保するための売上高を求めたり、あるいは固定費や変動費比率が変化した場合の利益に与える影響を検討したりします。

このように、様々な角度から損益のシミュレーションを行い、売上と利益の目標を設定することが利益計画になります。

資金計画においても同様の考え方が基本になります。

売上の変動が資金に与える影響を定量的に把握し、将来の運転資金需要を予測したり、資金の入りと出が均衡する売上高を求めたり、返済等の必要資金を確保するために必要な売上高を求めたりします。

 

3.損益分岐点の考え方との相違

資金の動きには、損益分岐点の場合と異なり債権債務や棚卸の期首期末の残高変化が影響します。

また、仮に同じ売上高であっても、売上が増加傾向にある場合と減少傾向にある場合とでは、債権債務や棚卸の期末残高に変化が生じるため、期中のキャッシュフローが異なることになります。(損益ベースでは利益に変化はありません。)

つまり、売上高が増加あるいは減少していく「変化」が資金計画の前提であり、売掛債権残高や棚卸資産、あるいは買掛債務残高の売上高に占める「割合」が変わらないとの条件下で行われるシミュレーションであることに注意を要します。

また、期末残高はその決算日直前の売買高等の影響を大きく受けることにも留意する必要があります。従って、期中において大きな変動が予測される場合は、売掛債権、棚卸資産、買掛債務の期末残高を、対売上比同率で計画すると大きな誤差を生じることがあることにも留意する必要があります。今回は便宜上同率としますが、実際の計算では注意して行ってください。

この資金計画の手法は、ある売上高からある売上高に変化する場合の資金(営業キャッシュフロー)の変化を求めるものであり、また増加運転資金予測の基になるものです。

 

4.増加運転資金の計算例

売上高           100,000千円

変動費(材料費+外注費)  70,000千円(変動費比率70%)

限界利益率         30.0%

固定費           25,000千円(うち減価償却費5,000千円)

利益            5,000千円

○売掛債権期首・期末残高(同額とする)25,000千円(25.0% 売上基準)

○期首・期末棚卸資産(同額とする)  10,000千円(10.0% 売上基準)

○買掛債務期首・期末残高(同額とする)17,500千円(17.5% 売上基準)

差し引き運転資金    17,500千円(運転資金発生率=17.5%(対売上比))

限界利益率30%-運転資金発生率17.5%=12.5%(資金余裕発生率=限界収支率) (限界収支率とは、売上の変化分における余裕資金の発生割合のこと)

このケースでは税金を考慮していません。実際に利益が出ているなら、売上増加分に対しては限界利益率を乗じたものが課税対象利益として増加するものと考えられるため、限界利益率30%のうち実効税率30%(仮)が税金として外部に流出するものとしなければなりません。

従って、本当の資金余裕発生率は、次のように計算されます。

限界利益率30%×(1-実効税率30%)-運転資金発生率17.5%=3.5%

(注:実効税率は条件によって異なる)

以上をまとめると次のようになります。

売上高増加分に対し手元に残る資金の割合は、

○課税される場合    売上増加分の 3.5%

○課税されない場合  売上増加分の12.5%

資金計画は、売上の変動に伴い必要運転資金がどのように増減するかを求めるもので、資金調達に密接に関係してくるものです。

一般的に、売上増加期には前述のように売上増分に対して得られる余裕資金の発生が少なく、反対に売上減少期には売上債権、棚卸、支払債務の期末残高が比例して減少するため、その期首と期末の差が期中に現金化され回収できることが多く、資金的にはプラスの要素として働きます。なお、これらは一時的な現象であることに注意を要します。

 

5.限界利益率と運転資金発生率、および限界収支率との関係

限界利益率から運転資金発生率を引いたものが、資金余裕発生率(限界収支率)であることは前に述べました。

前述のケースでは、限界利益率30%、運転資金発生率17.5%、従って限界収支率はプラス12.5%(課税される場合は3.5%)としていましたが、卸売業のように限界利益率(粗利益率)が低いうえに回収が遅く在庫負担も大きい業種の場合は、この限界収支率がマイナスになることがあります。

このような企業では、売上拡大期は売上増加に見合った利益が出ても資金的にはマイナスとなり、加えて税負担の増加も予測されるため、早めに必要運転資金調達の準備をすることが大切です

このように、資金計画を考える場合において、限界収支率の水準がどの程度であるか、それがどう変化してきたかを十分に確認する必要があります。

なお、この検討にあたっては、不良債権や不良在庫の有無を確認し、これらを除いて分析することにも注意が必要です。

 

6.収支分岐点計算

収支分岐点とは、資金的に収支が均衡するために必要な売上高のことです。つまり費用支払と売上収入がキャッシュベースで同じになる(経常収支が0になる)売上高のことで、損益分岐点と同様に財務計画を作成する際の重要データとなるものです。

ただし、売上債権発生率や棚卸資産発生率、買掛債務発生率に大きな変動がある場合は、精度が低下することに注意を要します。

以下に収支分岐点の計算方法を示します。

 

○売上収入 =年間売上高-(年間売上高×売掛債権発生率-期首売掛債権)

 

○費用支払 =(年間売上高×変動費率)+(固定費-減価償却費等)

+(年間売上高×棚卸資産発生率-期首棚卸資産)

-(年間売上高×買掛債務発生率-期首買掛債務)

 

○収支分岐点=((固定費-減価償却費等)-(期首売掛債権+期首棚卸資産

-期首買掛債務))÷((1-変動費率)-(売掛債権発生率

+棚卸資産発生率-買掛債務発生率))

 

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